Melty's
Fairy tale
めるてぃ童話


鳥の王



これは昔々の物語。山々は高く、海は深く、見渡す限り森が広がり、木の下闇は見通せないほど暗く、悲しみより喜びの時が長かった頃のお話。


第一章


あるところに、とてもとても大きな木がありました。山をいくつも重ねたものよりも大きく、雲より高い木です。

年に一度のお祭りの日に、その木に国中の鳥という鳥が集まりました。

国中の森や丘や泉や河から、とにかくいろんな所に住む、いろんな鳥が沢山集まりました。なにしろ国中の鳥ですから、その大きな木の枝でも止まる場所が足りないくらいでした。

そのとき、一匹の鳥がこう言いました。「野を越え、森を越え、河を越え、山を越えた遙か東の彼方、日の昇るところに『鳥の王』がいるそうだよ。その羽は七色の光に輝き、その羽ばたきは大風を起こし、とても賢く、とても勇敢だそうだ。我々の王なのに、我々はまだ会ったことがない。どうだろう、みんなで我々の王様を訪ねてみようじゃないか?」

鳥たちはそれは素晴らしいことだと、みんなが賛成し、その日のうちに旅立つことが決まりました。

翌朝、鳥という鳥が東に向けて飛び立ちました。なにしろ、とても沢山の鳥ですから、空を覆い尽くすほどでした。大地に住む動物たちは、もう夜が来たのかと空を見上げるほどでした。


第二章


広い広い草原の上を、鳥たちは何日も何日もの間、飛び続けました。しかし山はおろか、まだ森さえ見えてきません。ご存じの通り、昔の草原はとても広かったのですから。

ついに仲の良いミソサザイの夫婦が言いました。

「長年すんだ、あの居心地のいい我が家を捨ててはいけない。私たちは帰るよ」

たくさんの鳥があきらめて引き返して行きました。残った鳥たちは頑張って飛び続けましたが、しだいにお腹が空いてどうしようもなくなりました。

そこでハチドリが言いました。「僕、お花畑の場所が分かるよ。お花畑で蜜を吸っていこう!」

鳥たちはハチドリの案内で、お花畑に降り立ち、たっぷりと蜜を吸いました。

鳥たちは元気いっぱいに広い広い草原の上を飛び続けました。そしてついに草原の終わりが見えて来ました。その向こうには、高い木々がびっしりと生えた、深い森が広がっていました。

ハチドリは言いました。「お花畑を離れては、僕は蜜を吸えないよ。僕は残るよ。でもみんなは頑張ってね」

ついに鳥たちは草原を越えました。しかし、そのときには半分の鳥が居なくなっていました。

「ついに草原を越えたぞ! 次はこの深い森を越えるんだ! さぁ、みんながんばろう!」


第三章


目の前に広がっていたのは、深い深い森です。その木々はとても高く、枝は四方に伸びて空を覆い、びっしりと茂った葉はお日様の光を通しません。ご存じの通り、昔の森はとても深く広かったのですから。

その森のあまりの深さと暗さに、多くの鳥がおびえてしまいました。

まずあきらめたのは素早いツバメでした。彼は言いました。

「こんな暗い所では僕は飛べないよ。木にぶつかってしまうから。僕は戻るよ」

たくさんの鳥があきらめて引き返して行きました。残った鳥たちは我慢して暗い森の中に入っていきました。

太い幹が道をふさぎ、高い枝から、ほんの少しの木漏れ日だけが差し込んでいました。幹や枝にぶつかったり、迷子になる鳥がたくさんいて、どうしようもなくなりました。

そこで賢いフクロウが言いました。「わしは暗い森の中を飛ぶのが得意なんじゃよ。みな、付いてきなされ!」

フクロウの案内で、ようやく鳥たちは飛び続けることが出来ました。僅かな光の下を、長い間飛び続けました。そしてついに森の終わりが見えてきました。明るい光が差し込んで来ます。

フクロウは言いました。「この先は明るすぎる。わしは明るいところは飛べぬよ。暗き木の穴で眠るとしよう」

ついに鳥たちは森を越えました。しかし、そのときにはまた半分の鳥が居なくなっていました。

森の向こうには、きらきらとお日様の光を照り返して輝く、大きな河が広がっていました。

「ついに森を越えたぞ! 今度はこの河を越えよう! さぁ、みんながんばろう!」


第四章


その河はとても大きく、向こう岸が見えないほどでした。水面はお日様にきらきらと輝き、速い流れが銀色のしぶきをあげていました。ご存じの通り、昔の河はとても広く、流れも速かったのですから。

その河のあまりの広さと流れの速さに、多くの鳥がおびえてしまいました。

かわいいコマドリは震えながら言いました。

「私の翼は小さいの、きっと途中で河に落ちてしまうわ」

またまたたくさんの鳥があきらめて引き返して行きました。残った鳥たちは勇気を出して、河の上を飛び始めました。

しかし、いけどもいけども向こう岸は見えません。鳥たちは疲れてきました。しかし河の上では羽を休めることも出来ません。多くの鳥が河に落ちて流されて行き、もうどうしようもなくなりました。

白鳥たちがアヒルとカモに呼びかけました。「私たちなら水の上に浮かぶことが出来る。みんなで羽を取り合って、イカダになろう。そうすればみんながその上で休めるだろう」

白鳥とアヒルとカモは、苦労して速い流れの上に降りたつと、羽と羽を重ね合い大きなイカダになりました。おかげで他の鳥たちは、その上で順番に休みを取ることができました。

広い広い河でしたが、ついに向こう岸が見えてきました。向こう岸には山、また山が連なっています。

白鳥たちは言いました。「私たちは、これより先には行けない。流されてしまった鳥たちを助けに行かなくてはいけないから」

ようやく鳥たちは向こう岸に着くことができました。白鳥たちとも別れ、その数もずっと少なくなっていました。

「ついに河を越えたぞ! 今度はこの山を越えよう! さぁ、みんながんばろう!」


第五章


河を越え、東の彼方に見えていた山がずっと近くに見えるところまで来ました。その山の高さと険しさはみんなの想像を遙かに超えていました。ご存じの通り、昔の山はとても高く、険しかったのですから。

その山々の麓まで来て、上を見上げたとき、たくさんの鳥が怖じ気づきました。岩壁はとても険しくそそり立ち、頂上は雲よりも高く、麓からは見えなかったのです。

「くたくたに疲れているのに、こんな山は越せないよ」

もう決して多くない鳥たちでしたが、たくさんの鳥が山を前に引き返してしまいました。残った鳥はお互いに励まし合いました。

「この山を越せば、きっと東の果てにつく。もう少しだ!」

山を登るにつれ、風が強くなってきました。風は泥を巻き上げ、みんなの羽を汚しました。

お澄ましやのクジャクは言いました。

「せっかくの私の美しい羽が汚れてしまう。こんなところは飛べません」

残り少ない鳥たちは、さらに数を減らしました。しかし、それでも彼らは羽ばたき続けました。風は向かい風になりました。いくら羽ばたいても、前に進まないぐらいです。あんまりにも風が強くなって、どうしようもなくなってしまいました。

力強い翼をもつワシが言いました。「俺が風に向かって飛ぶ。みんな、俺の後に続くんだ!」

ワシが風を受けてくれたので、鳥たちはなんとかその後に続くことができました。しかし、風に吹き飛ばされていく鳥もたくさんいました。

雲に覆われていた山の頂上が近くなるにつれ、寒さが増してきました。それに雪も降ってきました。

そうです、吹雪が彼らに襲いかかってきたのです。

力強さを誇っていたワシが言いました。

「俺はどんな嵐でも乗り越えることが出来ると思っていた。しかし、この寒さだけは我慢できん!」

ワシのほかにも、たくさんの鳥があきらめて引き返しました。ごーごーと渦巻く吹雪の中、残された鳥たちは必死に羽ばたきました。

「頂上はもうすぐだぞ! あきらめずに行こう!」

風と雪で、目の前も見えないほどでした。引き返すことも出来ず、死んでいく鳥もいました。残った鳥たちは必至に体を寄せ合って飛びました。

もう飛べない、もう限界だ。残った鳥たちがそう思った瞬間、雪がやみ、青い空が見えました。

やりました! ついに彼らは頂上を越えたのです。そこは雲の上でした。吸い込まれるような青い空が、雲の海の上に広がっていました。

しかし、そこにたどり着けたのはほんのわずかな鳥たちだけでした。


終章


疲れ果てた彼らははよろよろと山をくだりました。

彼らの羽はぼろぼろになっていました。

下りの道は風も雪もありませんでした。しかし山を下りた頃には日が暮れかけていました。彼らは地上に降りて休むことにしました。

そこは砂浜でした。暗いみぎわには波が打ち寄せていました。

そこが陸地の終わるところでした。先には広い広い湖が広がっているだけでした。しかもその水はとても塩辛く、苦かったのです。それは海なのですが、彼らは海を見たことがなかったのです。

彼らは荒れ狂う波の向こう、東の彼方を見つめてため息をつきました。

「もうだめだ。この羽ではこれ以上飛べない。この大きな湖を越えることは出来ない。それともここが東の果てなのだろうか・・・」

彼らはすすり泣きながら、砂浜に倒れ伏して眠りました。それほどに疲れ切っていたからです。


朝が来ました。東の空が真っ赤に燃えて、お日様が昇り始めました。

目を覚ましお日様を見ていた彼らは、東の空から一匹の鳥が飛んでくるのを見つけました。

大きな鳥でした。その羽は朝日を浴びて七色に輝き、力強い羽ばたきでぐんぐんと大空を駈け、荒海を越えて彼らのいる砂浜に降り立ちました。

ああ、きっと彼が鳥の王様なのでしょう。とっても立派な鳥ですもの。そう、ついに彼らは鳥の王に出会ったのです!

「あなたが私たちの王様ですか? 私たちはあなたに会うために、遙か西から来ました」

その鳥は思慮深げな目で彼らを見ました。穏やかで澄んだ瞳でした。

「ようやく来たね。私は、私の後を継ぐものを待っていたんだよ。とても長いこと待っていたが、ついに来てくれた」

鳥たちは、彼の言う言葉の意味がよく理解できませんでした。

鳥の王はもう一度言いました。「あの山を越えてきたものには、私の後を継ぐ資格がある」

「でも、僕たちはただの鳥です。王様であるあなたの後を継ぐ資格なんてありません」

鳥の王は優しく微笑みながら言いました。

「君たちは自分のことがよくわかっていないんじゃないかな。もう一度お互いの体を見てごらん」

彼らはお互いの体を見つめ合い、驚きました。みんなの羽がきらきらと七色に輝いているではありませんか。砂浜の砂は実は海に映る星の輝きがうち寄せられたものでした。知らずにそこで眠った彼らは体中に星くずの砂をくっつけていました。それが朝日を浴びて七色に輝いていたのです。

「それだけではないよ。長い旅を終えた君たちの翼は前のままではない。羽ばたいてごらん」

ゆっくり眠り、疲れのとれていた彼らは言われるままに思いっきり羽ばたいて見ました。それはものすごい風を巻き起こすほど力強いものでした。

「長い旅路をくじけることなく終えた君たちの信念は強く、その英知は深い。まだ、わからないのかい? 君たちは鳥の王に会いに来たのではない。君たちが鳥の王になったんだよ」

そうです!

彼らは自分たちが会いたいと思っていた鳥の王に、自分たち自身がなっていたのです!

東の彼方に鳥の王がいるのではありませんでした。東の彼方にたどり着けるものが鳥の王になれるのです。長くつらい試練を終えたものだけが、そう呼ばれる資格があるのです。

鳥の王になったのは、ワシのように強くもなく、フクロウのように賢くもなく、クジャクのように美しくもない、名も無き鳥たちでした。しかし、ワシにもフクロウにもクジャクにも成し遂げられなかったことを、彼らは成し遂げたのです。


鳥の王になった彼らが、この先どうしたのかって? 残念ながら私は知りません。

だからこのお話はこれでおしまいです。

このお話の続きは別の人が、別の時に語ってくれるでしょう。

きっと。


あとがき


このお話の原作、というか原案は『Manteq al-Tayr (鳥の議会 Conference of the Birds)』 ファリード・ゥッディーン・ムハンマド・アッタール Farid al‐Din Muhammad Attar.から来ています。神鳥シムルグの羽を求めて旅立った鳥たちが、七つの谷という多くの試練を越え、ついにシムルグのすむ鳥の王の城にたどり着いたとき、彼ら自身がシムルグであることを知る、という粗筋らしいのですが、残念ながら読んだことはありません。某所で知った粗筋だけからふくらませてみました。

童話のつもりで書きましたが、寓話として読みとる人もいるでしょう。寓意を込めたつもりもありませんが、まぁどう受け取るかはお好きなように。

喝采を浴びるような傑作ではありませんが、どうしても書いておきたかったので、ここに発表しておきます。

イラストも添えたかったのですが、とりあえず文章だけで。

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WebMaster めるてぃ